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チェレスタという鍵盤楽器

■チェレスタの歴史

CELESTAという楽器は、見た目はオルガンの様ですが、音源の金属の板をピアノのハンマーで叩いて音を出すいわゆる鍵盤付きのグロッケンの様なものです。(鹿の角などで叩く”鍵盤グロッケン”という別の楽器もありますが・・・)

1886年フランスのオルガン製作家だったビクトール・ムステルにより考案され(同年10月に特許を取得)1892年にチャイコフスキーによるバレエ音楽「くるみ割り人形」劇中の「金平糖の踊り」のテーマに使われ、その巡業公演によりチェレスタは世間に知れ渡る事となる。

一方、1890年、ドイツの老舗ピアノメーカーであったシードマイヤー社もムステル式アクションを採用したチェレスタの生産を始める。Simone, Helmes 等アメリカのメーカーも存在したが、その後時代の変遷により1960年代半ばにはムステル社は生産を終える。他のメーカーも影を潜め、シードマイヤー社が唯一のチェレスタ専門のメーカーとなる。

そして、チェレスタ誕生からおよそ一世紀後にあたる1992年、ヤマハがグランドピアノのアクションを採用したチェレスタを発表、新世代のチェレスタが誕生。現在、日本でもお馴染みの楽器となりました・・・ 

 

*チェレスタを使った主な楽曲
・チャイコフスキー 交響的バラード「地方代官」1891年
(チェレスタ初演の曲とも云われている)
・チャイコフスキー バレエ音楽「くるみ割り人形」1892年
・マーラー 交響曲弟6番 1904年
・マーラー 交響曲「大地の歌」1908年
・ホルスト 組曲「惑星」1916年
・リヒャルト・シュトラウス オペラ「サロメ」1905年
・リヒャルト・シュトラウス オペラ「影のない女」1917年
・グローフエ 組曲「グランドキャニオン」1931年
・ベルク オペラ「ヴォツェック」1921年
・バルトーク 弦楽器・打楽器とチェレスタの為の音楽 1936年
・ショスタコービッチ 交響曲第4番 1936年
・ショスタコービッチ 交響曲第5番「革命」1937年
・ショスタコービッチ 交響曲第6番 1939年
・ショスタコービッチ 交響曲第11番「1905年」1957年
・ショスタコービッチ 交響曲第13番 1962年
・ショスタコービッチ 交響曲第14番 1969年
・ショスタコービッチ 交響曲第15番 1971年
・・・など

*チェレスタに対する誤解・・・

しかし、この楽器はあまり目にする事がないが故、知識の欠如によりヤマハのそれを贔屓する形で、「これまでのチェレスタは音の強弱のコントロールが効かず、表現力の乏しい楽器だった・・・」という類いの事が、あるサイト上で書かれていたりします。それは大きな間違いで、私はムステルやシードマイヤーのチェレスタがそのように批判されてる事に大変ショックを受けました。「弾きにくいチェレスタ」とは、ただ単に調整不良によりコントロール不能に陥っているだけで、きちんとメンテナンスされた楽器は充分な表現力を持っています。
チェレスタを良く知っている演奏家、技術者の中にはムステル及びシードマイヤーのチェレスタをこよなく愛している方も多くいる筈です。勿論ヤマハチェレスタも同様だと思います。

各々すばらしい楽器です!!公平な目でチェレスタを見てみませんか?

 

■ MUSTEL のチェレスタ

ムステル社のチェレスタは49Key(4oct)と後期に生産された61Key(5oct)のモノがあります。音板がレゾネーター上にマウントされていて、アクションレールを介し筐体両サイドに固定され、筐体全体で響く様な構造になっている。音量は他のメーカーより少々小さいが、このこじんまりとして、まろやかな愛らしい音色が本来のチェレスタの音のように思います。

*アクション

上から下へ音板を叩く方式。(逆跳ね返り式?)リターンスプリングの力でハンマーを上へ引き戻す。時代の変遷と共にアクションも細かい仕様変更があり、リターンスプリングの作用点や、ハンマーバットとリンクワイヤーとの関節部(アクション図中のAの部分)に違いが見られる。後期のモノは、ゴム製のグロメットを関節部分に使用していたりするので(右図)、それが劣化した場合、機能不良に陥ります。
ゴムが硬化してひび割れたり、溶けたりしてノイズ、スティック等を発生させるので、グロメットの交換が必要になります。しかし、純正部品は手に入らないので、代替品を探さなければなりません。

*リンク箇所のゴムグロメット
 (1965年頃のMUSTEL)

*レゾネーター

レゾネーター(共鳴箱)は2音一組で、たとえば、
CとC# で一つの共鳴箱、
DとD# で一つの共鳴箱…といった感じです。
2音一組にする事によってレゾネーターの数を減らしてコンパクトにして、鍵盤とアクションのリンクを簡素化している様です。

*シードマイヤーとの違い

・パーツの精度が低い。
経年劣化かもしれませんが、ムステルの木工パーツは少々精度が低く感じます。
・レゾネーターが2音で1箱なので、共鳴ポイントが曖昧。
レゾネーターが1音ずつあれば、共鳴ポイント(周波数)を正確に詰めることができるが、ムステルの場合、2音間で妥協しなくてはいけない。
・ペダルアクションが不自然。
踏み心地がかなり不自然。ペダルの回転軸の位置を変更したり、下死点を作る事で弊社のモノはある程度改善できました。
・良い点としては、働き調整が可能。
リンクワイヤー下にあるフレンジの内側に付いている真鍮製のブロック(図中のAの部分)を前後に調整する事によって働き(ハンマーの動く量)を調整出来る。(ゴムグロメットを使用している後期型アクションは調整不可)

 

 

■ Schiedmayerのチェレスタ

シードマイヤーのチェレスタは4octと5oct、5.5octのモノを製造しています。
こちらもムステルと同じく、音板をレゾネーター上にマウント。アクションレール (シーズボーダー)にハンマーアッセンブリーを固定し、レゾネーターを吊り下げる様にして両サイドに固定されている。音量、音色共にバランスのとれた素晴しい楽器です。

*アクション

ムステル同様、ハンマーが上から下へ音板を叩く方式。
リターンスプリングの力でハンマーを上へ引き戻す。
鍵盤から、離れているハンマーアッセンブリーまでのリンクの方法が変わっていて、パイプオルガンのトラッカーの伝達方法として使用されるローラーボードと同様のものを用いて鍵盤から離れた位置に配置されたハンマーアッセンブリーへと垂直にリンクさせている。その動きには本当に惚れぼれします。ただし、ローラーボード自体も木製ロッドと関節部にクロスを使用しているので、温湿度の変化には微妙に反応します。ハンマーの下死点はまめに調整が必要です。

 

*シードマイヤーのローラーボード

*レゾネーター

レゾネーターは1音につき1個。
ムステルと比較すると、ムステル2音分のレゾネーターの容量のものを1音づつ配置するので倍近くのスペースが必要になる。

*ムステルとの違い

・パーツの精度が高い。
一流ピアノメーカーのクオリティ!それ故ムステルにある働き調整部分は省かれている。(=パーツの精度が高ければ調整しなくとも揃っている)
・本体が大きく重い。
レゾネーター分、倍近くのスペースが必要になるので、その分、シードマイヤー製チェレスタはムステルより一回り大きくなり、筐体の剛性も高く、その分重量もかなり増す事になる。

*ヤマハとの違い

基本的にムステル式構造。
シードマイヤー社は特許取得者のムステル氏の指針を守り、チェレスタの伝統を継承してきました。

*ムステルの指針とは・・・
a. 鍵盤は木製レゾネーターの上にあり、フェルトハンマーにより上から鍵盤を叩く。
b. チェレスタの製造に於いて、アップライトピアノ(直角なタッチ)、及びグランドピアノの技術(下からのタッチ)のいずれも使用不可能。

シードマイヤー社ホームページより

 

■ YAMAHA のチェレスタ

現在ヤマハは、53Keyと56Keyの一列アクションのモノのみ販売している。(筐体も小型化)

初期のヤマハのチェレスタは、シードマイヤー同様 4octと5oct、5.5octが製造されてました。
それらはレゾネーターとアクションは上下2列配列で、5oct,4octのものは、白鍵が上段、黒鍵が下段というふうに配置されていた。現在、音域が狭い1列アクションに変更されて2列の旧式が廃盤になったのは、2列配列のメンテナンス性の悪さが足かせになったのでは。。。特に下段アクションの鍵盤調整は上段の鍵盤と連携して調整しなくてはならず、通常のピアノよりはかなり手間が掛かります。
ただ、2段式の方が当然音域も広く、メンテナンス性は他メーカーのものも同様で、ピアノ技術者にとっては大した差ではないかと思うので、5.5Aだけでも是非製造を再開して欲しく思います。

 

YAMAHAチェレスタ(5.5A)の2段目アクションを引き出したところ。
これを引き出すには上段アクションを引き出し、リンクワイヤー全てを外さなければならない。
下段の鍵盤整調は非常にシビアで、バランスピンとフロントピンのトルクバランスが重要になる。

*アクション

グランドピアノと同じアクション(ヘルツタイプ)を採用。それによりグランドピアノ同様のタッチを実現、弾き心地が向上。グランドピアノと同じ感覚で弾けるので、チェレスタの守備範囲は広くなる事でしょう。ただ、トレモロ奏法などは、アクションの機敏な動きに音板の挙動が付いていけなく思うので、速い連打で粒の揃った音を出す事は困難でしょう。その点はグランドピアノの様には行きませんが、チェレスタとしては充分素晴しい事だと思います。

*レゾネーター

レゾネーターは1音につき1個。音板とのギャップを調整できる様に上下可動式になっている。筐体はシードマイヤー同等の大きさ(初期タイプ)。
但し、ヤマハはレゾネーターの口にポートを設ける事によってレゾネーター容量を少なくしながらも充分な低音を増幅する事が出来ている。(ヘルムホルツ式レゾネーター)それにより、低音レゾネーターを小型化。限られたスペースの中、5.5octの音域で2列配列を実現している。

*シードマイヤー、ムステルとの違い

・下から叩くアクション・・・
音板の下側を叩く事により打鍵時音板が突き上げられる。
音板をマウントしている2本のネジのうち、鍵盤側のネジに上下に余裕を持たせ、打鍵時ダンパー側のネジを支点に鍵盤側が若干浮き上がる様な動きをする。
・音板はレゾネーターの上にあらず・・・
チェレスタの基本構造である「レゾネーターの上に音板を・・」がこのアクションの構造上不可能になる。シードマイヤーもムステルも、音板とレゾネーターがセットになっていて、それを太いアクションレールに並べて固定し、レールを通じてボディ全体に音振動を伝達する構造になっている。
ムステルの様に小型の筐体のものは出来るだけ音伝導効率を良くし、音量を稼ぎたいものでしょう。それとは違い、ヤマハは個々のレゾネーターの鳴りを重視し、得意のヘルムホルツレゾネーター理論による緻密な設計で音の連続性を追求している様である。そうする事で音がぼやける事がなく粒のはっきりした和音が得られるのだと思う。ある意味、前者のムステルとは逆のキャラクターなのでは・・・と感じたりもします。
・ダンパーアクション→ペダルアクションは理想的。
ダンパー、ペダルアクションは全くピアノと同じ。他2社はスプリングの力で音板を押さえて音を止めるが、ヤマハはダンパーアクション自体の重量で止める事ができるので、ダンパータンジェントのスプリングの調整(これが結構頻繁に行わなければならない作業)をしなくて良いし、鍵盤のタッチに与える影響も少ない。スプリングがない事は、ダンパーを総上げした時(ダンパーペダルを踏んだ時)にペダルに掛かる抵抗感もかなり改善されます。最も理想的な構造です。
ただ、ダンパーのフレンジ部が背面からパンチパネル越しに見えているのが少し気になります。下段の鍵盤も同様ですが、保管場所の温度・湿度管理はきちんとした方が良さそうです。

その他、ドイツのパーカッションメーカーで、自社オリジナル商品を多数揃えている KOLBERG Percussion(日本では、N響のフライトケースやバス椅子等でチョット有名な?) もヤマハのチェレスタ同様、グランドアクション(レンナー社製)を採用したチェレスタを販売している様です。

 

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